気候変動問題は年々深刻化しており、人々の生活や経済活動などさまざまな領域に重大な影響を与える可能性があります。この問題の解決は重要な経営課題であり、JVCケンウッドグループは、調達、製品開発、製造、製品・サービスの提供といったバリューチェーン全体を通じて、気候変動がもたらすグループへの影響の回避・低減の取り組みを進めています。同時に、国際社会の喫緊の課題である気候変動への対応に貢献することを目指しています。
そのためには気候変動問題の緩和に貢献し、適応する取り組みが重要です。
JVCケンウッドグループは、Scope1+2、 Scope3カテゴリのCO₂排出量削減や、生産工数の削減や省エネ機器導入等を通したエネルギー利用の削減に取り組んでいます。
Scope1+2、Scope3カテゴリのCO₂排出量については、パリ協定※で定められた「1.5℃目標」に整合する形で目標を設定しています。目標は順調に進捗しており、今後も気候変動関連の取り組みに注力していきます。
また、JVCケンウッドグループでは、サステナビリティ推進室が主体となり、継続的にSBT(科学的根拠に基づく目標)を含む関連情報の収集や目標設定の議論を深めています。今後も、適切な目標設定、管理と情報開示等により、着手可能な施策から随時取り組みを進めつつ、環境条件の変化や新しい技術の導入に合わせて戦略や目標を見直していきます。
※2015年12月12日にパリで行われた第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において採択された、2020年以降の気候変動対策を目的とする国際的な多国間協定。この協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から2℃未満に抑えることを目指し、さらに1.5℃以内への抑制を努力する方針が盛り込まれている。
グローバルでのCO₂排出量の削減の短・中・長期目標として、以下を掲げています。
■事業活動に伴うCO₂排出量削減
取り組みの推進にあたっては、以下のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、取り組み状況を進捗管理しています。
| 取り組みテーマ | 目標/実績 | KPI | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | 2030年度 | ||
| CO2排出量削減(Scope1+2)(2019年度比) | 目標 | ▲16.8% | ▲21.0% | ▲25.2% | ▲46.2% |
| 実績 | ▲41.0% | ▲46.5% | |||
■購入した製品、輸送、販売した製品の使用による排出量削減
(※カテゴリ1:原材料・部品および購入した物品に伴う排出量、カテゴリ4:原材料・製品の輸送に伴う排出量、カテゴリ11:販売した製品の想定される電力消費に伴う排出量)
取り組みの推進にあたっては、以下のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、取り組み状況を進捗管理しています。
| 取り組みテーマ | 目標/実績 | KPI | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | 2030年度 | ||
| CO2排出量削減(Scope3)(カテゴリ1、4、11)(2019年度比) | 目標 | ▲4.91% | ▲6.14% | ▲7.36% | ▲13.50% |
| 実績 | ▲8.44% | ▲19.04% | |||
目標達成に向けた活動として、事業所における電力の使用量監視、高効率の生産・空調機器への更新、LED照明等の設備導入を進めており、従業員への環境教育にも力を入れています。また、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)にも参加しており、CO₂総排出量の削減、エネルギー原単位の改善についての連携や情報収集も行っています。2019年の環境省主催の「インターナルカーボンプライシング活用支援事業」への参加を通じて社内における炭素コストの意識付けに向けた活動を開始し、今後は経済産業省主催の「GXリーグ※」への参加を目指し、排出削減と産業競争力の向上の実現に向け、排出量取引、市場ルールの形成、ビジネス機会の創造、参画企業との交流を検討していきます。(詳細は環境省ホームページをご覧ください。)
※GXリーグ:自主的参加の温室効果ガス排出権取引(GX-ETS)など、カーボンニュートラルに向けた社会構造変革のための価値提供を目指す、リーダーシップを持った企業の集合体。
2023年4月、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しました。詳細は、気候関連財務情報開示タスクフォース サポーターをご覧ください。
■ガバナンス
JVCケンウッドグループは、「気候変動への対応」をサステナビリティ推進戦略における重要な課題の一つとして認識しています。具体的には取締役会による監督のもと、取締役を兼務する担当執行役員を置き、2018年4月にサステナビリティ推進室を設置し、気候変動を含むサステナビリティ推進戦略を迅速に実行するための体制を整備しました。サステナビリティ推進室は、気候変動対策推進とその進捗管理の全社的な調整を行い、関連部門と連携し、マテリアリティ(重要課題)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の定期的な見直しや、気候変動による事業への潜在的な影響についての調査・情報収集、サステナビリティ関連情報の開示拡充に取り組んでいます。加えて、社内における気候変動に関する問題意識の醸成や理解促進に向け、関連各部署と積極的なコミュニケーションを図りながら、事業とサステナビリティを結び付ける取り組みを主導しています。
また、気候変動問題に対応するガバナンス体制として、2023年度より気候変動問題への対応を含む、サステナビリティ全般についての推進主体組織である「サステナビリティ委員会」をCEO直轄組織として設置し、脱炭素化に向けた戦略の策定や施策の検討を行います。同委員会は、毎年2回の定例開催に加え、必要に応じて臨時開催し、議論の内容は執行役員会や取締役会に報告します。さらに、「サステナビリティ委員会」の下部組織として、テーマごと(気候変動については環境部会)に担当役員を責任者とする専門部会を設置し、それぞれのテーマの課題の抽出、目標や実施計画、具体的対応等を協議し、推進していきます。
これらの取り組みを監督する取締役会では、取締役会規定にのっとり、必要に応じてサステナビリティ委員会からの報告を受けるとともに、環境に関する事業戦略および年次予算計画の立案と承認、依存と影響・リスクと機会や気候移行計画の作成・情報開示に関する承認を行うほか、これらの取り組みの進捗管理等を行っています。
取締役会のメンバーには、ESG課題に関する役員レベルの業務経験を有するものが参加しているほか、環境課題や外部フレームワーク(TCFD等)に関する研修、外部講師による講義・パネルディスカッション(サステナビリティ・シンポジューム)を定期的に実施することでスキルの向上に努めるなど、ESG課題への取り組みに対し実効性の高い監督を行うことができる体制を構築できるよう努めています。
サステナビリティ推進体制
2023年度の具体的な活動として、環境部会において、「気候変動への対応」「資源の有効活用」「環境保全・管理」「生物多様性の保全」を主な柱とした環境基本方針「JKグリーン2030」による目標設定について議論を行い、取締役会の決議を経て承認されました。
2024年度活動として、環境部会では第三者検証実績報告や、CO₂排出量のインベントリ見直し報告を行いました。
また、同時に行われたサプライヤー部会では、特にスコープ3におけるカテゴリ1:原材料・部品および購入した物品に伴う排出量、カテゴリ4:原材料・製品の輸送に伴う排出量の算定精度向上と排出量削減に向けた取り組みについて報告ならびに審議を実施しています。
また、2025年度の監査等委員ではない取締役の報酬についての報酬見直しでは、代表取締役を含め短期インセンティブ(STI)の業績評価のKPIにESG指標(エンゲージメント、CO₂排出量削減および外部評価)を追加し組み込んでいます。
詳細についてはコーポレートガバナンスをご覧ください。
■戦略
JVCケンウッドグループは、2023年度以降、TCFD最終提言に沿った形での「シナリオ分析」を定期的に実施し、リスクと機会(および自然との依存と影響)が自社のビジネスモデルに与える影響を、概ね特定しており、さらにより精度を上げるための活動を行っております。また、当社の気候移行計画に基づく財務的な影響について、特に生産拠点の統廃合に伴うエネルギー効率化等による費用対効果について、目標と実績から検討する作業を行っています。
なお、シナリオ分析で識別されたリスクと機会は、特にバリューチェーンの上流・下流における①原材料調達②生産プロセス③輸送と物流に影響を与えており、自社戦略においては、①製品開発と設計への影響②法規制と規制遵守③顧客と消費者行動の変化の影響が考えられる点などを特定しました。
また、脱炭素に貢献する製品展開の拡大や、省エネ・省資源に伴うコスト低減などの対応策を検討したほか、さらなる成長に寄与する機会も検討を行っています。
JVCケンウッドグループにおける『リスクと機会』の特定と事業に対する影響度
特定した「リスクと機会」に対する対応策として、環境配慮型製品や防災・減災に対応した製品の開発、導入を進め、新たな市場の開拓に取り組んでまいります。また、新中期経営計画「VISION2025」と連動した日本国内市場向けの製品において「国内生産回帰」、生産総量を考慮した生産拠点レイアウトの最適化、環境負荷の低減を考慮した製品開発、天然資源設備の代替検討、再生可能エネルギー電力の使用といった対応策への投資計画や、サステナビリティ・リンク・ローンの利用等を通じて、エネルギー消費量やCO₂排出量の削減・製造・輸送などの企業活動のプロセスの効率性向上を実現するなど、さまざまなリスクへの対応を進めており、気候変動に対するレジリエンスを高めています。
「国内生産回帰」を含む、「生産グランドデザイン」によるものづくりの最適化においては、取り組みが進捗し、生産拠点・事業所の閉鎖・統合によるJVCケンウッド長野での生産増加や、それに伴うCO₂排出量の削減につながっています。
生産・開発拠点の最適化「生産グランドデザイン」によるCO₂削減計画の進捗状況。
1)エネルギー削減につながる生産・開発拠点の統廃合計画
| 2022年度 | カーナビの生産移管(インドネシア→長野)/プロジェクターの生産移管(タイ→横須賀) 業務用カメラの生産移管(タイJKET→タイJKOT)とJKETの生産活動終了 国内OEM用品向けカーナビの生産移管(中国(上海)→長野) |
| 2023年度 | M&T分野の開発機能をシンガポールから移管/シンガポール開発拠点閉鎖 中国(上海)生産拠点の事業活動終了 |
| 2024年度 | 八王子事業所閉鎖、久里浜事業所閉鎖、白山事業所からの本社への集結 |
2)2024年度およびそれ以前における生産・開発拠点の統廃合による排出量削減
| 2022年度 | 1700t-CO₂の排出削減目標に対し、2.7千t-CO₂を削減 |
| 2023年度 | 1800t-CO₂の排出削減目標に対し、9.0千t-CO₂を削減 |
| 2024年度 | 1800t-CO₂の排出削減目標に対し、2.2千t-CO₂を削減 |
注:集計対象範囲はCO2排出量削減ページ「事業所別CO2排出量」を参照
さらに、資源管理については、気候変動に対する対応策を検討する中で、資源の枯渇や供給不足、リサイクルに関する分析により、持続可能な資源管理のための戦略も策定を進めるなど、リスクと機会への対応策を強化しています。
(参考資料:環境省『サステナビリティ(気候・自然関連)情報開示を活用した経営戦略立案のススメ ~TCFDシナリオ分析と自然関連のリスク・機会を経営に織り込むための分析実践ガイド ver2.0~』2025年3月)
| リスク | シナリオ | 対象範囲 | 時間軸 | 採用理由(全て「パリ協定」に整合) | 想定される事業環境 |
|---|---|---|---|---|---|
| 移行リスク | IEA NZE 2050 | 組織全体 | 2030年・2050年 | IEA(国際エネルギー機関)の「NZE2050」は、世界が2050年までにネットゼロ排出を達成するために、エネルギー需要やエネルギーミックスをどのように変化させるべきかを示したシナリオです。当社では、移行リスクを検討するための1.5℃目標に基づくシナリオとして採用しています。 | ➤分野共通 ➤M&T分野 ➤S&S分野 ➤ES分野 |
| 物理リスク | RCP2.6 | 組織全体 | 2030年・2050年 | RCP2.6は、地球温暖化の目標を比較的適応可能な範囲に収めることを目指したシナリオです。当社では、物理リスクを最小限に抑えることを検討するためのシナリオとして採用しています。 | ➤分野共通 ➤S&S分野 |
| RCP8.5 | 組織全体 | 2030年・2050年 | RCP8.5は、現在の排出トレンドが続いた場合、気候変動の影響が最も深刻になる可能性を示すシナリオです。当社では、このシナリオを物理的リスクが最大化する状況への対応を検討するための4℃シナリオとして採用しています。 | ➤分野共通 |
なお、シナリオ分析においては、技術的、経済的、社会的な要因(新技術の開発/普及の速度等、国際的な協力体制・政策の実現性・世界の経済成長率・エネルギー需要の変動)等の多くの外部環境を考慮していますが、これらの情報・データなどはシナリオ分析検討時点のものであり、分析精度の向上に留意していますが、特定したリスクと機会による事業への影響は不確実な要素を含みます。
■リスク管理
JVCケンウッドグループでは、職場と経営層が協働して取り組むリスクマネジメントとして、全世界の職場でリスクサーベイランスプロセスを毎年実施しております。リスクサーベイランスにおけるリスク項目の中には自然災害リスク等が含まれており、気候変動に関連する事項も含めてリスクの特定、評価、管理を行っています。リスクサーベイランスプロセスの詳細は全社的リスクマネジメントをご覧ください。
リスクサーベイランスにおいては、検討対象とするリスクカテゴリ内にTCFD提言に沿ったリスク管理(移行リスク・物理的リスクおよびその分類項目)を追加しました。これにより、気候変動に起因するリスクを明確に管理すると同時に、他の一般的なリスクと統合した形での対応策の進捗管理を実現しています。
またリスクの影響・発生可能性・規模を評価する際は、自社の事業活動やサプライチェーンに与える影響の種類を特定した上で、過去の発生頻度や気候シナリオ、リスクサーベイランスで使用している定量的閾値を考慮しています。
| リスクカテゴリ | リスク事象 | ||
|---|---|---|---|
| 大分類 | 中分類 |
小分類 | |
| 気候変動関連のリスク | 移行リスク(低炭素経済に移行する際に発生するリスク) | 政策・法規制 | 炭素税の導入 |
| GHG排出量規制/排出量報告義務 | |||
| 省エネ政策/設備投資によるコスト増 | |||
| 法規制・燃費規制等 | |||
| 市場 | 原材料・エネルギーコスト増/調達困難 | ||
| 消費者の行動変化 | |||
重要商品/製品価格の増減 |
|||
| 技術 | 再エネ・省エネ技術開発の遅れ | ||
| 環境配慮製品開発の研究開発投資増加 | |||
| 評判 | 顧客の評判変化 | ||
| 投資家の評判変化 | |||
| ブランド棄損 | |||
| 物理的リスク(気候変動による物理的変化により発生するリスク) | 急性 | 異常気象の激甚化(台風・洪水) | |
| BCP対応によるコスト増加 | |||
| 慢性 | 平均気温の上昇 | ||
| 降水・気象パターンの変化 | |||
| 海面の上昇 | |||
■指標と目標
JVCケンウッドグループはJKグリーン2030を策定・推進しています。気候変動のリスク対策に向け、短中期的にはScope1+2の目標として2030年までに2019年比で46.2%の削減を目指し、Scope3の目標としては、2030年までに2019年比13.5%の削減を目指しています。長期的には2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を立てています。
詳細についてはCO₂排出量削減をご覧ください。
【産業横断的指標】
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| GHG排出量 | Scope1:0.7千t-CO₂(2024年度) Scope2:21.8千t-CO₂(2024年度) Scope3:1,113.1千t-CO₂(2024年度) |
| 報酬 | 詳細はコーポレートガバナンスをご参照ください。 |
JVCケンウッドグループは、気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative : JCI)のメンバーとして気候変動に関わる情報交換や政策提言の支援を行っています。JCIはパリ協定が求める脱炭素社会の実現に向け、世界と共に挑戦の最前線に立つことに賛同した企業や自治体、NGOなどによるネットワークで、政府による温暖化ガスの削減戦略に対する働きかけや気候変動に係る国際会議等で意思表明などを行っています。JVCケンウッドグループは、JCIが掲げる宣言「脱炭素化をめざす世界の最前線に日本から参加する」に賛同し、気候変動イニシアティブへの参加を通じて、政策立案者との対話を行っています。これからも「1.5℃目標の実現に向けた世界のトップランナーとなるよう、自らの活動においてエネルギー効率化と再生可能エネルギー利用を加速する」という内容に沿って、生産工程の省エネルギーをはじめとする取り組みを強めていきます。
また、JVCケンウッドグループは、家電製品協会(AEHA)にも加盟しています。AEHAは、家電製品に共通する諸問題を総合的に捉え、調査・研究と政策の立案、実施を行っている団体です。日本では家庭でのエネルギー消費が増加傾向であるため、節電とともに省エネ家電を使用することが地球温暖化のために有効であることを、消費者向けに周知し、温暖化防止の取り組みを推進しています。JVCケンウッドグループは、この方針に賛同し、AEHAの理事として「理事会」「環境役員担当会議」の部会に参加しています。加えて、関連する委員会として「省エネルギー対策委員会」「家電リサイクル委員会」「容器包装リサイクル委員会」等の会合に参加し、提案・意見交換等を行っています。なお、意見交換等の結果、AEHAの方針とJVCケンウッドグループにおける方針が異なると判断された場合には、改めて該当する方針については検討し、適切に対応することとしています。
加えて、JVCケンウッドグループは、日本機械輸出組合(JMC)にも加盟しており、組合内のグローバル環境対策委員会に委員として参加し、カーボンニュートラルなど気候変動に関連した環境問題やEU を中心とした主要国・地域における将来的な規制に関わる政策の動向に関して、各社の取り組みに関する情報交換、政府や関係機関等の環境問題の専門家を招いた講演や意見交換などの活動を行っています。