林 和喜 はやし かずよし
常務執行役員 コーポレート部門担当補佐、経営企画部長、新規ビジネス開発担当
ダイバーシティは多様性を意味する言葉で、年齢、性別、国籍、人種など、目に見えやすい「表層的ダイバーシティ」と、宗教、文化、価値観、経験、スキルなど、目に見えにくい特徴を持った「深層的ダイバーシティ」に分けられます。JVCケンウッドでは表層面と深層面の両面からダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを進めており、特に「深層的ダイバーシティ」が当社における強みのひとつだと考えています。
その背景にあるのが、2008年の経営統合です。世界初や世界最小など画期的な成果をエンジニアたちがリードしてきた旧日本ビクターと、技術に加えてデザインやマーケティングを得意としてきた旧ケンウッドが一体となったことが、JVCケンウッドにとって最初のダイバーシティ&インクルージョンだったと思います。それぞれに歴史と文化があり、越えてきた苦難も成功体験も異なります。当初は、深層の価値観である仕事観やスキルの違いによるコンフリクト※もありました。
これは事業が大きくなればなるほど起こりうるものですが、変革がなければ事業の成長にはつながりません。コンフリクトこそが進歩や成長の糧となり、既存の価値観を刷新しながら、新たな事業を生み出すことができるのです。
※コンフリクト:英語で対立や意見の衝突等を意味する言葉。異なる意見や要求などがぶつかり緊張状態にあること。
価値観の違いはインクルージョンが実現されることで、新規事業やイノベーションの創出につながっていきます。経営統合後、私はそのような現場を目の当たりにし、時には今までの価値観で制約していたことを取り払ってくれました。
ひとつは、2014年から行われたドライブレコーダー事業への新規参入です。既存事業とは別の開発部隊を投じるなど事業の枠を超えた戦略と、商社からキャリア採用された事業責任者の着任により、これまでの技術志向からマーケット志向へ切り替わったことよって、ドライブレコーダーの市販市場への短期導入とOEM市場への参入という成果となり、大きなビジネスへと急成長させることができたのです。
そしてもうひとつが、テレマティクスサービス事業部の立ち上げです。テレマティクスサービス事業部の前身は、2016年に経営企画部における一つのチームとして既存社員2名とキャリア採用の社員2名で発足し、2017年にソリューション開発部として独立しました。2018年に本格的な売上開始。2019年にDXビジネス事業部として本格的な事業部として活動を開始し、2020年度には売上100億円を優に超えるという当社でも稀有な成功を実現した組織です。いまや売上200億円を超え、DXを始めとした新たなビジネスも生み出しています。
何か新しいことを始めるためには、いままでの仕組みを崩したり、考え方を変えることは避けては通れません。しかし、たとえ意見の相違はあっても、多様な人材が持つ能力や経験は、変化に対する柔軟性、しなやかさ、迅速性をもたらし、課題を解決しようとする強い気持ちを湧き上がらせます。価値観の違いが創造性や新たな価値を生み出し、突破力に繋がると考えています。
インクルージョンの実現には、外部からの多様な人材獲得が有効です。いま、「オープンイノベーション」という言葉がありますが、同じ企業の、同じ環境で育ったメンバーだけでは乗り越えられない状況も、新たな人材投資によって解決できることもあります。言わば、現場を活性化させる一番の起爆剤ではないでしょうか。このようなキャリア採用だけでなく、事業や部署を越えることにも同じことが言えます。それは、私自身がさまざまな事業を経験してきたこともあり、ローテーションがダイバーシティ&インクルージョンには極めて有効だと実感しているからです。だからこそ、社内における適切な人材ローテーションをやるべきだと感じています。
そのために大切なのは、異動先の事業部において、その事業に適した研修をしっかり行うことです。たとえば、イノベーションを実現する人材の育成を目的とするのであれば、新規事業開発に求められる「事業構想を練る」「チームを作りマネジメントをする」など、部門ごとに独自のカリキュラムを作り、外部の教育機関などで学べる機会をつくることが重要です。
JVCケンウッドが今後「変革と成長」を進めるためには、志向力・思考力・試行力を備えたイノベーター人材が必須になります。ダイバーシティ&インクルージョンを通じて良い意味でのコンフリクトを引き起こし、強靭かつイノベーティブな組織をつくりあげることで、さまざまな事業で生き延びる「たくましさ」と「したたかさ」を併せ持つエクセレント・カンパニーへ飛躍できるのだと私は感じています。
*所属・職位は掲載日時点の情報です。