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【JVCKENWOOD NEWS】

Through Tak's Eyes

イノベーションとは何か?

 

 

昨今「イノベーション」は、その言葉を目にしない日は無いくらい最も重要なキー・ワードの一つとなっています。ここ数年、社内のみならず社外でも「イノベーション」講話を行う機会が増えています。有識者の皆さんが「イノベーション」について色々と語られており、私も大いに共感していますが、やや異なった視点での私の持論を以下に述べます。

 


「イノベーション」=「技術力」x「想像力」

 

つまり、イノベーションは技術力と想像力の積算であるということです。イノベーションを起こすのに必ずしも画期的な新技術が必要ではありません。当社も含め一般論としてですが、日本の企業は十分な技術力を有しています。しかし、適応領域が「常識的」であるが為に、イノベーションに繋がっていないこともあるのではないでしょうか。想像力を逞しくして、既存技術を新たな領域に適用することによってイノベーションが芽吹くことは十分あり得ることです。

 


Imagination is more important than knowledge.

 

これはかの有名な物理学者アルバート・アインシュタインの言葉です。

技術力また論理の範囲で想像するのではなく、想像を逞しく羽ばたかせ、技術力や論理が後追いで実現するというのが私の解釈です。アインシュタインは、ハッブル宇宙望遠鏡で有名なエドウィン・ハッブルに大きな影響を受け、ハッブルはジュール・ベルヌに大いに感化されており、この3人は科学界の「Celebrity Connections」と呼ばれています。

 


写真引用:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』


 

ジュール・ベルヌはフランスの空想小説家で「人が想像出来ることは、必ず人が実現出来る」という有名な言葉を残したと言われており、数多くの冒険SF小説を世に出しました。「海底二万マイル」、「80日間世界一周」、「地底旅行」、「地球から月へ(月世界旅行)」(1865年)などです。

 

「地球から月へ」は大ベストセラーとなり、各国語に翻訳され何万部と刷られて世界中の本屋に並びました。そのストーリーは、フロリダに長さ270mの巨大な大砲を建設し、3人の男を乗せた砲弾を月に向けて発射するという荒唐無稽なものでした。砲弾は月を周回した後、帰還して無事太平洋に着水するというものでした。その一冊は、ロシアのコンスタンチン・ツィルコフスキーに。その一冊は、米国のロバート・ゴダードに。更に、その一冊は、オーストリア・ハンガリー帝国のヘルマン・オーベルトに渡りました。この三人はやがて「ロケットの父」と呼ばれる研究者となりました。

 

今年はアポロ11号による月面着陸50周年です。その一年前1968年、3人の宇宙飛行士を乗せたアポロ8号はフロリダから打上げられ、月を周回した後、太平洋に着水帰還しました。正にジュール・ベルヌの「地球から月へ」そのものでした。フロリダからの打上げは偶然ではありません。ベルヌは科学技術にも明るく、地球の引力圏を振り切る速度(第二宇宙速度=11.2Km/秒)を得るためには、地球の自転速度を利用することが有効であり、赤道に近いことが有利であることを知っていました。ベルヌの小説が好まれた背景には、科学技術的な裏づけがあったこともあるのでしょう。

 


何よりも重要なことは、「月へ行く」という突飛な発想です。

飛行機も無く、気球・飛行船の時代に空を飛ぶどころか、「月に行く」という大胆な発想が素晴らしいと思いませんか?

 

その当時の技術では全く荒唐無稽な「空想」に聞こえますが、この「空想」に向けて様々な研究者・技術者が努力・挑戦を重ね、「地球から月へ」は約百年後に見事に実現しました。技術は幾何級数的に進化していますが、その目指すところの原点は「想像力」であります。

 

アポロ計画は約40万人が関わった空前のメガプロジェクトといわれていますが、それを率いた責任者は、戦後米国に亡命したウェルナー・フォン・ブラウンです。彼は第二次大戦中にヒトラーの命を受けて、V2ロケット(弾道ミサイル)を開発したことで有名です。フォン・ブラウンは、子供の頃に前述のオーベルトの著書を読んで宇宙への夢を掻き立てられ、猛勉強の末、ロケット科学者になりました。彼はヒトラーに利用されたと言われていますが、実際は宇宙への夢を実現する為に彼がヒトラーを利用し、米国に渡り最後はNASAで夢を叶えたということなのでしょう。

 

写真引用:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』



2008年4月3日、「ジュール・ベルヌ」と命名された欧州補給機(ATV: Automated Transfer Vehicle)初号機がISS(国際宇宙ステーション)にドッキングしました。そこにはビニール袋にパックされた二編の古い書籍が記念品として積まれていました。それは、”De la Terre a la Lune”(「地球から月へ」)と”Autour de la Lune”(「月世界へ行く」、「地球から月へ」の続編)でした。

 

写真引用:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』


アポロ計画成功の要因は何でしょうか?

・ケネディ大統領による政治的決断!?

・NASAのプロジェクト遂行能力!?

・勇敢且つ優秀な宇宙飛行士の活躍!?

 

勿論これらは重要な要素ですが、何よりも重要なことはアポロ計画に関わった科学者、技術者、事務員、建設作業員、運転手、清掃員など約40万人の人たちがそれぞれ「誇りと責任」を持って一つの目標に立ち向かったことではないでしょうか。

 

1962年、ケネディ大統領がNASAを視察した際の逸話です。廊下にホウキを持った清掃員がいました。大統領は立ち止まり「あなたは何の仕事をしているのですか?」と話かけました。

清掃員は胸を張って誇らしげに答えたそうです。

「大統領、私は人類を月に送るのを手伝っています。」

 

イノベーションは技術力と想像力の積算であります。そして、イノベーション実現のためには、全ての関係者が目標を共有し、それぞれが「誇りと責任」を持って立ち向かうことだと思います。