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【JVCKENWOOD NEWS】

Through Tak's Eyes

司法の仕組みと米国大統領選挙戦の動向

 

米国大統領選挙まで余すところ約3週間となり、連日さまざまな報道が飛び交っています。恒例の大統領候補による論戦は「史上最悪」と酷評されるほど、節度のない中傷・非難合戦に終始しました。

 

連邦最高裁判所判事任命、COVID-19感染拡大、医療保険体制、人種差別、経済対策、郵便投票、中国問題など論点は数多くありますが、中でも日本国民として実感が湧きづらい争点が連邦最高裁判事の任命問題です。以下に日米の司法の仕組み概要を最高裁判所中心に整理してみました。

 


 

米国

日本

裁判所組織の構造

  • 連邦最高裁、下級裁判所(控訴裁判所:13カ所、地方裁判所:89カ所)(主に連邦法に関する事件を担当)
  • 合衆国という形態から州裁判所が別途存在(州法に関する事件)最上級裁判所、中間上訴裁判所、一審裁判所という構造
  • 最高裁判所(大法廷:判事15名と小法廷:判事別途規定)
  • 高等裁判所(8カ所:東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松)
  • 地方裁判所、家庭裁判所および簡易裁判所

 

最高裁の担当業務

  • 連邦裁判所は主に憲法・連邦法事案、海事、州間、州と海外、知財
  • 州裁判所は主に州法事案
  • 司法における最高機関
  • 下級裁判所の裁判官を任命

 

 

最高裁判事の人数と任期

  • 9名(主席判事+陪席判事8名)
  • 終身(任期無し)
  • 定足数6名
  • 15名(最高裁判所長官+判事14名)
  • 定年70歳
  • 就任10年経過後に衆議院選挙と同時に国民審査

 

最高裁判事の任命者

  • 下級裁判所判事も含めて大統領が指名し、上院の同意を得て、大統領が任命
  • 内閣が任命し、天皇が認証(下級裁判所の裁判官は最高裁判所が任命)

 その他

  • 下級裁判所では、65歳以上で一定の条件を満たす場合には給料を得ながらの退任を選択が可能。退任裁判官は、フルタイムまたはパートタイムで「シニア・ジャッジ (Senior Judge)」として事件の審理の担当ができる。シニア・ジャッジは一審・二審における事件処理数の15%から20%を担っている。
  • 人、被告人や当事者からは口述で意見を聞かず、また質問も投げかけず、書面審理を中心とした法律審が基本となっている。
  • 従い、証言台は存在しない。

先月、RBGと呼ばれ多くの米国民に慕われていたルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)米最高裁判所判事が亡くなり(享年87歳)、米国連邦最高裁判所の判事は現在8名となっています。RBGは史上2人目の女性最高裁判事でリベラル派の英雄的な判事でした。トランプ政権は3日後その後任として、48歳のエイミー・コーニー・バレット(Amy Coney Barrett)女史を指名しました。

 

 

RBGの後任人事が米国大統領選挙の重要な争点の一つとなっています。その背景ですが、現在世論調査で後手を引いているトランプ大統領の戦略として、僅差での敗北となった場合に最終判断を連邦最高裁判所に持込む可能性があるためです。RBGが亡くなった今、判事構成は保守派5名、リベラル派3名となっていますが、現時点で保守派を1名増やしておくと、保守派6名:リベラル派3名となり万が一、保守派判事の一人がバイデン陣営を支持しても勝てるという作戦です。一方、最高裁判断の前にはいくつかのプロセスがあります。

 

ルース・ベイダー・ギンズバーグ
元連邦最高裁判事

引用:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』


  • 選挙結果に対する異議申立期日は12月8日で、この時点で決着がついていない場合、大統領は下院、副大統領は上院が決めるプロセスへ移行します。50州の各州が1票を持ち選出しますが、この際どちらの党が州を代表する1票をもつかが重要です。大統領選挙と同時に行われる下院の改選選挙後、その州の下院議員の数で上回る党が1票を持ちます。現在、連邦議会下院で民主党が過半数を制していますが、それは関係ありません。過去に下院が大統領を決めたことは3回ありました。
 
  • 今回の大統領選挙と同時に行われる下院の改選で今の勢力が変わらないとすると、共和党は25州で1票をもち、民主党は24州で1票をもちます。ペンシルベニア州では下院議員数が同じであり現状のままであれば、トランプ大統領が再選されます。しかし、下院議員選挙では民主党が躍進するとの予想であり、改選前の構図が変わる可能性があります。特にペンシルバニア州の選挙結果が極めて重要になります。
 
  • 下院の改選も紛れて訴訟まみれで結果が出ない場合は、憲法の規定で下院議長(民主党 Nancy Pelosi女史)が臨時大統領として就任します。この場合、初の「女性大統領」と認識されるのでしょうか?

 

いずれにせよ、かような事態になると連邦最高裁判所の判断が極めて重要になりますので、RBGの後任人事が大きな争点となっているのです。トランプ大統領は、大統領任期が4年であり任期内は自分が任命できる。一方、バイデン候補は残りの任期が3ヶ月となった今、新大統領が任命すべきという主張を行っています。オバマ大統領時代に同様のことがあり、当時の共和党が現在の民主党の主張で後任人事を沙汰止みにした経緯もあります。

 

日本では最高裁判所判事の名前を一人でも言える人は非常に少ないと思います。恥ずかしながら私も一人も覚えていません。一方、米国では任期が終身ということもあるのでしょうが、多くの人たちが名前を覚えているとのことですので驚きです。いずれにせよ、極めて影響の大きい米国大統領選挙動向から目を離せません。

 

 

なお、新型コロナ感染など何らかの事態で、現職大統領が職務を遂行できなくなった場合の大統領職の継承順位は、憲法により次のように17位まで規定されています。

 

1位:副大統領(Vice President) ⇒ 2位:下院議長(Speaker of the House) ⇒ 3位:上院次席(President pro tempore of the Senate) ⇒ 4位:国務長官(Secretary of State) ⇒ 5位:財務長官(Secretary of the Treasury) ⇒ 6位:国防長官(Secretary of Defense) ⇒ 7位:司法長官(Attorney General) ・・・17位:国土安全保障長官(Secretary of Homeland Security) 

 

現状、2位を除いて全員共和党となっています(国防長官と国土安全保障長官は中道の見方もあります)。

上述のごとく新大統領が就任した際の副大統領は、大統領が指名し上下両院の承認で就任します。この場合も、新大統領が共和党であれば上院次席が、民主党の場合には下院議長が就任することが多いようです。