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【JVCKENWOOD NEWS】

Through Tak's Eyes

半導体産業のこれから

「一難去って、また一難」というか、コロナ禍という空前の難局の終息が見えず、「新常態」の中での事業活動をそれぞれ苦心して継続している日々に、半導体供給不足という新たな難題がのしかかって来ています。
「半導体は産業のコメ」という表現が定着し久しいですが、ここ数カ月はその供給不足が自動車産業、通信業界などに次々波及し、深刻化しています。正常化するまでには、最短でも数カ月~1年程度掛かりそうです。

 

■ 世界の半導体産業の概要(2019年)は次のとおりです。
・市場規模:4,285億ドル(約46兆円)。シェア的には、Intel (16.5%)、Samsung (12.3%)、以下SK hynix、Micron Technology、Broadcom、Qualcomm、Texas Instruments、STMicroelectronics、NVIDIA、Infineon TechnologiesがTop10で、キオクシア(旧東芝メモリ)が辛うじて11位にランクされています。
約20年前の市場規模は約15兆円でしたが、11年前の2010年には約33兆円に拡大し、今に至っています。かつて、半導体業界では日本企業が強みを発揮していましたが、メモリーのコモディティ化またホームエレクトロニクス製造拠点の海外移転などに伴い、その優越的地位を失うことになりました。

 

・今回の半導体供給不足で最も影響を受けている自動車用半導体の市場規模は、481億ドル(約5.2兆円)で半導体全体市場の約11%です。

この市場に限定したシェアでは、ルネサスエレクトロニクス (18.1%)、NXP Semiconductors (17.7%)、Infineon Technologies (16.0%)、Microchip Technology (12.4%)、STMicroelectronics (12.0%)、Texas Instruments (7.8%)、Samsung (1.5%)、、、10位キオクシア(1.2%)となっています。

 

■ 世界半導体市場は今後も拡大を続け、2050年には8,622億~1兆123億ドルになるとの予測も出ています(EE Times Japan)。半導体製造の新技術開発も激化し、特に先端的なプロセステクノロジーである回路配線の間隔が急速に狭くなっており、世界最大のファウンドリー(半導体受託生産会社)のTSMC社は、2019年から5nm(10億分の5メートル)の線幅を実現し、すでに2nmの開発も進めています。
一方、最大シェアを誇るIntelですが、10nmの開発が遅延し、やっと今月から量産が始まった状況で、周回以上の遅れを取ってしまいました。半導体の新技術の開発には莫大な投資が必要で、当然その製造設備の開発も必要です。設備メーカーとしてのビッグ3は、Applied Materials(米国)、ASML(オランダ)、東京エレクトロン(日本)となっています(2019年度)。米中摩擦がますます激化すると想定されるなか、半導体製造メーカーも対中輸出には「経済安保」の観点から、さまざまな制限が課せられるのではないでしょうか。

 

■ 今後も拡大が継続する半導体市場において、日本はなんとしても復権せねばなりません。

私見ですがその可能性はパワー(電力制御用)半導体にあると考えます。パワー半導体の市場規模は現在約2.4兆円、平均成長率は7%で2025年には3.4兆円規模になると予想されています。背景としては、IoT/DXによる大規模データセンター、新エネルギー(太陽光・風力発電)、自動車産業におけるEV化があります。現状、市場シェア的には、Infineon Technologies (27.1%)、ON Semiconductor (9.7%)、三菱電機 (8.5%)、STMicroelectronics (6.5%)、富士電機 (6.5%)、キオクシア (6.5%)、ルネサスエレクトロニクス (5.7%) と日本勢が活躍しています。パワー半導体の材料としては、他の半導体と同様、 Si(シリコン)が大半ですが、新たな材料が続々と開発、研究されています。SiC(シリコンカーバイド)、GaN(窒化ガリウム)、Ga2O3(酸化ガリウム)が新たな材料として期待されています。
SiCはすでに実用化され、新幹線の700系や電気自動車のTESLA Model 3に使用されています。GaNも研究が進み、ノーベル賞を獲得した青色LEDの材料として実用化されています。
やや専門的になりますが、材料としての特性は次に示すように、Ga2O3とダイヤモンドが有望です。

パワー半導体の一例(出典:週刊東洋経済Plus)

Siを1とした時の特性比較

 

Si

SiC

GaN

Ga2O3

Diamond

バンドギャップ
(高温での動作)

1

2.9

3.0

4.8

4.9

絶縁破壊電界強度
(高電圧での動作)

1

9.3

16.6

26.7

33.0

熱伝導性
(放熱のし易さ)

1

3.8

1.2

0.1

17.0

バリガ性能指数
(損失の少なさ)

1

580

3,800

3,444

49,000

Ga2O3は熱伝導性がSiやGaNに比べ一桁悪く問題視されていましたが、京都大学発のベンチャー企業FILOSFIAが技術解決し、三菱重工業やデンソーなどからも出資を受け開発を進めています。材料として理想的なのはダイヤモンドですが、技術的な問題により、過去10年以上研究段階からの脱却ができませんでした。しかし、先月佐賀大学が精密機器部品メーカーのアダマンド並木精密宝石と共同で実用化にめどを付けたと発表しました。これはGa2O3と同様にサファイヤ基板を使用し、その上に人工ダイヤモンドを成長させる技術であり、アダマンド並木精密宝石が開発した「Micro Needle」基板上に設置し、ダイヤモンド層の破壊を阻止するというものです。佐賀大学によると5年以内の量産化が期待できるとしています。
まずはSiCのシェアが上昇し、その間にGaN、Ga2O3、ダイヤモンドなどの量産化が開始されれば、日本の復権も大いに期待できると思います。

 

がんばれNIPPON!!!

写真

佐賀大学が作成に成功した人工ダイヤモンドを使った
パワー半導体(出典:佐賀新聞LIVE)