【JVCKENWOOD NEWS】
私が商社マンとして駆け出しの1970年代半ばのことです。モスクワ支店からのテレックスにより興味深い問い合わせを入手しました。その内容はKGB(ソ連国家保安委員会)からのもので、『200m離れたところから窓ガラス越しの会話を盗聴する設備を100台調達したい』というものでした。KGBは1954年からソビエト連邦の崩壊(1991年)まで存在したソビエト社会主義共和国連邦の情報機関・秘密警察であり、当時は軍の監視や国境警備も担当していました。 東西冷戦時代には米国CIA(中央情報局)と双璧をなし、さまざまな小説や映画に登場していました。
当時は米ソ冷戦の真只中で、貿易管理の観点から輸出制限の対象でしたので、本当に技術的に可能なのだろうかと半信半疑で調査はしましたが、結局手掛かりはありませんでした。
東西冷戦という政治的な背景として、情報機関があらゆる手立てを通じて、諜報活動を行っているという漠然とした認識を持っていました。当時、米国はモスクワに新大使館を建築中で、建設途中、各所に盗聴器が仕掛けてあることが判明して全てを取り壊し、作り直した経緯があります。その際、全ての壁にあらゆる電子部品を埋め込んで、電子タイプライターからのわずかな電波放射による盗聴を防止する工夫がなされました。
それから約20年後、米国のある企業が1マイル離れたところから窓ガラス越しの会話を盗聴できる設備を、すでに販売しているとの情報を得ました。レーザーを利用し見通せることが必要でしたが、窓ガラス越しの会話を聴くことができるというものです。その仕組みですが、室内の会話によって振動した窓ガラスにレーザー光を当てて、その反射波を解析することにより盗聴できるというものです。大音量の音楽を流し盗聴を防止するシーンの映画などがありますが、音楽は規則性があり不必要なノイズとして除去ができるので盗聴防止には役立たないそうです。最も効果的なのは、窓に厚手のカーテンを掛けて振動を抑えるか、アナログTV時代のランダム(スノー)ノイズ(放送されていないチャンネルに現れる砂嵐のような画面)を流すことだったそうです。この種のランダムノイズは規則性がなく、ノイズ除去ができないとの説明でした。この設備は米国IRS(国税庁)が最大のユーザーで、この設備を活用し多くの脱税事件を立件し、またFBIおよびCIAも大口のユーザーであるとのことでした。これは日本でも大きな需要があると考え、米国企業にコンタクトしましたが、日本政府の印章の入った正式な引合書がなければ、一切の情報は出さないとの返事でした。犯罪組織などに悪用されないようにとの配慮だったのでしょう。現在でも販売先は厳しく管理されているようです。トム・クランシー作の小説「Present and Clear Danger(今そこにある危機)」は大ヒットし映画化もされましたが、その中でCIAがこの設備を使って麻薬カルテルの会話を盗聴するシーンが出て来ます。映画の中の盗聴設備はどの程度信憑性があるのかどうかは分かりませんが、イメージは掴めます。
遠隔盗聴のイメージ図
(出典:ZDNET/LidarPhone attack converts smart vacuums into microphones)
実物の運用デモシーン
(出典:Lasermicrophone.com)
この種の盗聴器の歴史は古く、ソ連の発明家レフ・テルミンにより、“The Thing”もしくは“The Great Seal Bug”と呼ばれる盗聴器が開発されています。1945年8月4日にソ連政府からハリマン米国大使に寄贈された壁掛け装飾の中にこの盗聴器が仕掛けられていました。これは、電源のいらないパッシブ型の音声信号発信機で、現代のRFID(無線タグシステム)の基になったともいわれています。
1947年頃にはレーザーではなく低出力赤外線ビームを使用したブラン盗聴システム(“Buran”)も開発しています。KGBの前身であるNKVDべリア長官はモスクワの米、英、仏大使館の窓ガラス越しの会話を盗聴していたとの報道があります。
ちなみにテルミンは世界初の量産型電子楽器を発明したことでも有名です。
米国NSA National Cryptologic Museumでの “Great Seal”の展示
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』)
一方、イスラエルではユニークなシステムが開発されています。高性能カメラで会話者の唇の動きを解析し会話の内容を判断するというもので、遠隔地からの「読唇術」とも言えます。詳細は不明ですが、何語での会話かを推測し、AIを活用し「読唇」するのであろうと推測します。どれ程の精度なのかも不明です。
現代ではどのような盗聴システムが使用されているのかは知りえませんが、インターネット情報は全て盗聴されていると思われます。米中摩擦の中で、5Gシステムの基地局から中国製を排除する動きがありますが、それは上述の盗聴の仕組みになり得るからと思われます。さらに、真偽のほどは確認できませんが、エシェロン(“ECHELON”) と呼ばれる軍事目的の通信傍受(シギント:Signal Intelligence)システムの存在が噂されています。米国を中心とした通称ファイブ・アイズ(UKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組み。米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で構成)で全世界に構築されたシステムのようで、関連文書の公開で活動の一端が明らかになりましたが、米国政府他もその存在を認めたことはありません。
エシュロンに関する施設だといわれているイギリス空軍メンウィズヒル基地にあるレドーム(レーダーアンテナ保護用のドーム)
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』)
三沢基地 姉沼通信所(1990年代、アメリカ空軍撮影)
奥に見える大きな輪状のアンテナ施設は通称「ゾウの檻」と呼ばれていたが、すでに使用が中止され撤去が予定されている
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』)
正に「事実は小説よりも奇なり」の世界ですが、現代社会はSNSなど通信手段が多様化し、個人情報保護も声高に議論されるなか、全ての情報が筒抜けの可能性があります。
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