【JVCKENWOOD NEWS】
新型コロナウイルス変異株による第5波と呼ばれる感染爆発は収束方向ではありますが、依然予断を許さない状況です。読者のみなさんには、すでにワクチン接種を終えられた方々も多いのではないでしょうか。一方、ワクチン未接種の若者への感染が急増する中、ワクチン接種が進む高齢者への感染はそれ程増加せず、ワクチン接種の効果が確認されています。日本でも5月以降接種が進んでおり、9月15日時点の統計では、一回以上接種8,156万人(内必要回数接種6,604万人)、人口比64.4%となっています。
日本では、ファイザー社およびモデルナ社のワクチンが使用されており、共にmRNA(Messenger Ribonucleic acid: メッセンジャー・リボ核酸)を使用した革新的なワクチンです。両ワクチンともに臨床試験の段階で、それぞれ90%台半ばの有効性が確認されています。その有効性は、米国疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、下記のように明白です。
1週間・10万人当たり
患者数 | 【ワクチン未接種】 | 【ワクチン2回接種】 | 【有効性】 |
発症者 | 178.6人 | 21.4人 | 88.0% |
入院 | 2.52人 | 0.1人 | 96.0% |
死亡 | 0.96人 | 0.04人 | 95.8% |
開発者は米国在住ハンガリー人、独ビオンテック社のカタリン・カリコー博士(Katain Kariko)と、米国ペンシルバニア大学教授ドリュー・ワイスマン博士(Drew Weissman)です。ご両人はRNAの専門家で20年以上にわたってmRNAの活用方法を研究しており、この研究を基にわずか1年程度の短期間にファイザー社とモデルナ社がmRNAワクチン開発に成功しました。ご両人は早くもノーベル賞の有力候補とうわさされています。
カタリン・カリコー博士
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』)
ドリュー・ワイスマン教授
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』)
極めて評価の高いmRNAワクチンの仕組みについて素人の私ですが、その理解の範囲内で解説します。
新型コロナウイルスに対する免疫が出来る過程
※「SARS-CoV-2」とは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす原因となるウイルスの名前です。
(出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター、ブライトパス・バイオ株式会社発表「COVID-19ワクチン候補ペプチドの同定細胞性免疫誘導を特徴とする画期的ワクチンの開発へ」)
このmRNAワクチンは2回接種することが必要ですが、これには免疫細胞にとって大きな意味があります。ファイザー製ワクチンの場合、一回目接種後7~10日後に抗体量が増加し、以降も徐々に増加します。抗体量増加が止まる頃(3週間後)、2回目接種を行いますが、以降一週間程度は抗体量が急増することが確認されています。その後は徐々に抗体量は減少していきます。
この様な状態で、新型コロナウイルスが体内に侵入した場合、抗体が新型コロナウイルスの突起にくっつくことにより、新型コロナウイルスは細胞内に侵入することができなくなります。この抗体による防御システムを潜り抜けて侵入するウイルスがあっても、キラーT細胞が感染した細胞を排除します。
冒頭のデータを見ても、mRNAワクチンは、極めて有効であることが分かっていますが、それは新型コロナウイルスの遺伝情報を極めて正確に獲得することにより、抗体生成に加えてキラーT細胞やヘルパーT細胞を事前に活性化できることによるものです。インフルエンザワクチンの場合、ウイルスの抗原の基になる抗体を接種するだけですのでB細胞は働きますが、キラーT細胞やヘルパーT細胞を活性化することができないことにより、有効性が低いと考えられます(有効性が20~30%の場合もある)。
現在、世界的に問題となっているデルタ株に対する有効性が議論になっていますが、mRNAワクチンの場合、B細胞や棒状細胞の働きは若干低下するようですが、キラーT細胞やヘルパーT細胞は強く活性化されますので、新型コロナウイルスに感染したとしても重症化を防ぐ効果は高いことが確認されています。
CDCのデータ(イスラエルにおけるファイザー製ワクチン2回接種による効果測定)によると、次の結果となっています。
【アルファ株】 | 【デルタ株】 | |
感染予防 | 95% | 64% |
発症予防 | 96% | 64% |
入院/死亡 | 98% | 93% |
日本でも第一三共社と東京大学医科学研究所にてmRNAワクチンの開発が進んでいます。本年3月に第I/II相試験を開始し、来年度中には第III相試験が終了し承認されると期待されています。また、アンジェス社、大阪大学およびタカラバイオ社では、ウイルスのDNAを投与し人体内でmRNAを介してリボソームに情報を伝達するというDNAワクチンを開発しています。昨年12月から第II/III相試験を開始しています。
副反応についても多くの議論があります。発熱・頭痛・倦怠感が一般的ですが、これは免疫システムの活性化によるものです。体質や免疫システムの強弱など個人差が大きいので一概には言えませんが、副反応の大きさと有効性にはあまり相関関係はないようです。一部の特殊な体質の方にはアナフィラキシー症状が発現することが確認されていますが、あくまでも「免疫訓練」によるものですので長期にわたる副反応はないようです。体内には日々色々なウイルスが入っていますが、我々の遺伝子が書き換わることはありません。また、mRNAは大変脆弱ですので、体内に残留することはなく数日以内に排出されます。
mRNAワクチンで注射するmRNAは短期間で分解されます。
(出典:厚生労働省 WEB新型コロナワクチンQ&A)
mRNAワクチンは30年前から開発されていました。1980年代に、人工的なmRNAを使用したワクチンが開発されましたが、接種後に細胞が拒絶反応を起こし死滅することにより暗礁に乗り上げました。
拒絶反応を克服することが最大の課題となりましたが、細胞から取り出したRNAを他の細胞に注入した結果、tRNA(Transfer RNA:転移=運搬RNA)だけが炎症を起こさないことが発見されました。これはRNAを構成する物質ウリジン(Uridine)の特性が変化しており(化学修飾)、それが炎症を防止することが発見されました。これにより、ウリジンを使用したmRNAを使用する方向が定まりました。2008年には、このウリジンをシュード(pseudo:疑似)ウリジンに変えると10倍の量のたんぱく質が得られることが発見され、一気に開発が加速しました。RNAの活用はワクチンのみならず、治療薬や癌ワクチンの研究においても幅広く研究されていましたが、新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、ベンチャーであったビオンテック社がファイザー社と連携しmRNAワクチンの開発に成功しました。すでに世界中でさまざまな研究が一層活発化し、近い将来RNAを活用した各種感染症ワクチンや、がんワクチンなども期待されています。
(出典:AnswersNews WEB 「がん治療や再生医療にも…新型コロナワクチンが開く「mRNA医薬品」の可能性」)
人類の進化は継続的なウイルスとの戦いの歴史と言われますが、我々はあらたな「武器」を得たといっても過言ではないでしょう。新型コロナウイルス感染症の早期「収束⇒終息」を願うばかりです。
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