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【JVCKENWOOD NEWS】

Through Tak's Eyes

想像力がイノベーションの原点

新型コロナ感染についてはワクチン接種も進んだことに加えてさまざまな要因もあるのでしょうが、新規感染者は毎週半減し急速に減少しています。緊急事態宣言なども全面解除され、読者の皆様も安堵されるとともに明るい気持ちでお過ごしのことと拝察します。

“Imagination is more important than knowledge”
(想像することは知識よりもずっと重要)


これはAlbert Einsteinが残した言葉です。本コラムの第一回にてご紹介しましたが、イノベーションは「想像力」と「技術力」の積算です。想像力を逞しくすることにより新技術が生まれ、イノベーションに繋がります。また、既存技術であっても想像力を膨らませ、新たな適用領域を見つけることでイノベーションが生まれます。つまり、「想像力がイノベーションの原点」が私の持論です。

 

現実世界が予言を超える

1901年1月2日と3日の両日にわたり、当時の報知新聞が「二十世紀の予言」を掲載しました。その内容は後述しますが、120年前の人たちが想像力を逞しくして素晴らしい未来を予言していたことが、うかがわれます。技術の進化は驚くべきものであり、書かれている23項目の内多くの項目で現実世界が予言を遥かに凌駕しているのです。



二十世紀の豫言
~ 1901年1月2日・3日付報知新聞にて掲載(番号は筆者が追記) ~

十九世紀は既に去り人も世も共に二十世紀の新舞臺(舞台)に現はるゝことゝなりぬ、十九世紀に於ける世界の進歩は頗る(すこぶる)驚くべきものあり、形而下に於ては『蒸汽(蒸気)力時代』『電氣(電気)力時代』の稱(称)ありまた形而上に於ては『人道時代』『婦人時代』の名あることなるが更に歩を進めて二十世紀の社會(会)は如何なる現象をか呈出するべき、既に此三四十年間には佛國(仏国)の小説家ジュール・ヴェルヌの輩が二十世紀の豫言(予言)めきたる小説をものして讀者(読者)の喝采を博したることなるが若し十九世紀間進歩の勢力にして年と共に愈よ(いよいよ)増加せんか、今日なほ不思議の惑問中に在るもの漸漸思議(ようようしぎ)の領内に入り來ることなるべし、今や其大時期の冒頭に立ちて遙かに未來を豫望(予望)するも亦た快ならずとせず、世界列強形成の變動(変動)は先づさし措きて暫く物質上の進歩に就きて想像するに

01. 無線電信及電話

マルコニー氏發明(発明)の無線電信は一層進歩して只だに電信のみならず無線電話は世界諸國に聯絡(連絡)して東京に在るものが倫敦(ロンドン)紐育(ニューヨーク)にある友人と自由に對話(対話)することを得べし

02. 遠距離の寫眞(写真)

數十年の後歐洲(欧州)の天に戰雲暗澹(あんたん)たることあらん時東京の新聞記者は編輯局にゐながら電氣力によりて其状況を早取寫眞となすことを得べく而して其寫眞(写真)は天然色を現象すべし

03. 野獸(野獣)の滅亡

亞弗利加(アフリカ)の原野に到るも獅子虎鰐魚等の野獸を見ること能はず彼等は僅に大都會の博物館に餘命(余命)を繼(継)ぐべし

04. サハラ砂漠

サハラの大砂漠は漸次沃野に化し東半球の文明は漸々支那日本及び亞弗利加(アフリカ)に於て發達すべし

05. 七日間世界一周

十九世紀の末年に於て尠(少)くとも八十日間を要したりし世界一周は二十世紀末には七日を要すれば足ることなるべくまた世界文明國の人民は男女を問はず必ず一回以上世界漫遊をなすに至らむ

06. 空中軍艦空中砲臺(砲台)

チェッペリン式の空中船は大に發達して空中に軍艦漂ひ空中に修羅場を現出すべく從って空中に砲臺浮ぶの奇觀を呈するに至らん

07. 蚊及蚤の滅亡

衛生事業進歩する結果、蚊及び蚤の類は漸次滅亡すべし

08. 暑寒知らず

新器械發明せられ暑寒を調和する爲に適宜の空氣を送り出すことを得べし亞弗利加(アフリカ)の進歩も此爲なるべし

09. 植物と電氣

電氣力を以て野菜を成長することを得べく而して豌豆(注=そらまめ)は橙大となり菊牡丹薔薇は緑黒等の花を開くもあるべく北寒帶(寒帯)のグリーンランドに熱帶の植物生長するに至らん

10. 人聲(人声)十里に達す

傳聲(伝声)器の改良ありて十里の遠きを隔てたる男女互に婉婉たる情話をなすことを得べし

11. 寫眞(写真)電話

電話口には對話(対話)者の肖像現出するの裝置あるべし

12. 買物便法

寫眞電話によりて遠距離にある品物を鑑定し且つ賣買の契約を整へ其品物は地中鐵管(鉄管)の裝置によりて瞬時に落手することを得ん

13. 電氣(気)の世界

薪炭石炭共に竭き電氣之に代りて燃料となるべし

14. 鐵道(鉄道)の速力

十九世紀末に發明せられし葉巻煙草形の機關車は大成せられ列車は小家屋大にてあらゆる便利を備へ乘客をして旅中にあるの感無からしむべく啻(注=ただ)に冬期室内を暖むるのみならず暑中には之に冷氣を催すの裝置あるべく而して速力は通常一分時に二哩(マイル)急行ならば一時間百五十哩(マイル)以上を進行し東京神戸間は二時間半を要しまた今日四日半を要する紐育(ニューヨーク)桑港(サンフランシスコ)間は一晝夜(一昼夜)にて通ずべしまた動力は勿論石炭を使用せざるを以て煤煙の汚水無くまた給水の爲に停車すること無かるべし

15. 市街鐵道(鉄道)

馬車鐵道及び鋼索鐵道の存在せしことは老人の昔話にのみ残り電氣車及び壓搾空氣車(圧搾空気車)も大改良を加へられて車輪はゴム製となり且つ文明國の大都會にては街路上を去りて空中及び地中を走る

16. 鐵道の聯絡(連絡)

航海の便利至らざる無きと共に鐵道は五大洲(五大州:アメリカ大陸・ヨーロッパ大陸・アジア大陸・アフリカ大陸・オセアニア)を貫通して自由に通行するを得べし

17. 暴風を防ぐ

氣象上の觀測(観測)術進歩して天災來らんとすることは一ヶ月以前に豫測(予測)するを得べく天災中の最も恐るべき暴風起らんとすれば大砲を空中に放ちて變(変)じて雨となすを得べしされば二十世紀の後半期に至りては難船海嘯等の變(変)無かるべしまた地震の動搖は免れざるも家屋道路の建築は能く其害を免るゝに適當(適当)なるべし

18. 人の身幹

運動術及び外科手術の効によりて人の身体は六尺(約180cm)以上に達す

19. 醫術(医術)の進歩

藥劑(薬剤)の飲用は止み電氣を以て苦痛無く局部に藥液(薬液)を注射しまた顯微鏡とエッキス光線の發達(発達)によりて病源を摘發(摘発)して之に應急(応急)の治療を施すこと自由なるべしまた内科術の領分は十中八九まで外科術に移りて後には肺結核の如きも肺臟を剔出して腐敗を防ぎバチルス(細菌か?)を殺すことを得べし而して切開術は電氣によるを以て毫も苦痛を與ふる(与える)こと無し

20. 自動車の世

馬車は廢(廃)せられ之に代ふるに自動車は廉價(廉価)に購うことを得べくまた軍用にも自轉車(自転車)及び自動車を以て馬に代ふることとなるべし從って馬なるものは僅かに好奇者によりて飼養せらるゝに至るべし

21. 人と獸との會話(会話)自在

獸語の研究進歩して小學校に獸語科あり人と犬猫猿とは自由に對話(対話)することを得るに至り從って下女下男の地位は多く犬によりて占められ犬が人の使に歩く世となるべし

22. 幼稚園の廢止(廃止)

人智は遺傳(遺伝)によりて大に發達(発達)し且つ家庭に無教育の人無きを以て幼稚園の用無く男女共に大學を卒業せざれば一人前と見做されざるにいたらむ

23. 電氣(気)の輸送

當本(当本=にほん)は琵琶湖の水を用ひ米國(国)はナイヤガラの瀑布によりて水力電氣を起して各々其全國内に輸送することとなる

以上の如くに算へ(かぞえ)來(来)らば到底俄に盡(尽)し難きを以て先づ我豫言(予言)も之に止め餘(余)は讀者(読者)の想像に任す兎に角二十世紀は奇異の時代なるべし

 

上述のように昔の人達は素晴らしい想像力を発揮し二十世紀の世界を予想しました。中には方向感に首を傾げる記述もありますが、技術的な予言については、現実世界が圧倒的に勝っています。

項目1、2、10、11、12はいわゆるICT(情報通信技術)に関連するものですが、現代社会は当時の予言・予想を遥かに凌駕しており、スマートフォンはその典型です。
ちなみに日本では約100年前に携帯電話についての記述があり、これは世界最古の携帯電話についての文献と言われています。
それは、大正12年の関東大震災からの復興を願った「大東京復興双六(すごろく)」の付録で、東京の未来を描いた1コマに、小学生が歩きながら「懐中電話」で家の母親と話す姿が描かれています。技術的な根拠がない全くの想像の世界だったでしょうが素晴らしい想像力が発揮されています。

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携帯電話を描いた世界最古の文献
(画像出典:株式会社CUBE WEB「スマートフォン社会は100年前から予言されていた」)

項目14、15、16は鉄道社会の未来を語っています。日本初の鉄道は1872年の新橋―横浜間が始まりですので、約30年経過した時点での予言です。急速に発展する鉄道網や電車のネットワークと連絡網は想像に難くない状況であったのでしょう。高架や地下鉄についての記述も素晴らしいですし、東京神戸間2時間半の予測も当たっています。

項目20による自動車の世界は今、100年に一度の変革期と呼ばれ急速に電動化への道を歩んでいます。
世界初の自動車は諸説ありますが、1769年にフランスの軍事技術者ニコラ・ジョセフ・キュニョーが蒸気で走る自動車を発明しました。この車は普及しませんでしたが、実験中に操縦を誤り壁に衝突し世界初の自動車事故を起こしたことで記録を残しました。世界初のガソリン車はベンツが1886年に開発しました。この車は棒ハンドルで前輪を操舵し時速15kmというものでした。このベンツ1号が1887年の1月29日に特許を取得したことから、この日が世界初の「ガソリンを動力とする車両」の誕生日とされています。

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世界初の自動車(蒸気機関)
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

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世界初のガソリン自動車
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

日本の自動車メーカーで最も古い歴史を持つのはダイハツです。1907年の創業で当時の社名は「発動機製造株式会社」で純国産の発動機の生産を目指し、大阪で創業しました。1930年に純国産のオート3輪「ダイハツ号」を製造しました。

項目13、23の電気の世界は的中していますが、現代社会の基本エネルギーは電気となっており、当時の人たちはここまでの進化は想像できなかったのではないでしょうか。車の電動化はいうまでもなく、船舶や航空機までも電動化に向けて研究が進んでいます。

 

100年後を想像

では、二十一世紀に住む我々は100年後の世界をどのように想像できるでしょうか? 弊社の有志で100年後の世界を予測しました。その内容を、縦軸に「技術難易度」、横軸に「発想の飛躍度」としてプロットしたものを下記に示します。

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右側・上方に記載の部分には興味深い予測があります。
読者の皆様もぜひ「想像力」を逞しくして、100年後の世界を想像してみませんか。