【JVCKENWOOD NEWS】
ここ数年よく耳にする言葉として「ドローン(Drone)」があります。娯楽用、産業用、軍事用などあらゆる領域での活用が始まっており、今後その適用領域の急拡大が予測されています。今回はドローンについてご紹介します。
そもそも、ドローンの定義は何でしょうか?
ドローンと混同されるものにラジコンがあります。遠隔操作で飛行可能なラジコンヘリコプターや飛行機もドローンの一種です。ドローンは約10年前から徐々に紙面に登場する機会が増えてきました。日本では2015年に航空法第2条22項の改正により「無人であり、遠隔操作または自動操縦で飛行できる、200g以上の重量の機体」がドローンと定義されるようになりました。
一方、Oxford Advanced Learner’s Dictionariesによると、ドローンは「無人であり、地上から制御され、写真撮影、爆撃、貨物輸送などに使用される航空機」 とされています。定義に「爆撃」が入っているように元来、軍事用として使用されるUAV (Unmanned Aerial Vehicle: 無人航空機)、UGV (Unmanned Ground Vehicle: 無人車両)、UUV (Unmanned Underwater Vehicle: 無人潜水艇) などを総称してドローンと呼んでいました。
最近では、「空」に限定せず、「陸」や「海」さらには「海中」にまでドローンの領域が拡大されています。これらのドローンを娯楽、産業、軍事の観点から、それぞれの活用領域について解説したいと思います。
娯楽用
東京オリンピックでのドローン・パフォーマンス
(出典:日本経済新聞WEB「ドローン・歌舞伎 五輪開会式、日本の伝統と技術随所に」)
既に娯楽(エンタメ)用には空撮用カメラを搭載したドローンが一般的に活用され、かつて見られなかった映像が視聴者に感動を与えています。また、単に飛ばすことを楽しむトイ・ドローンも普及し、安価に入手が可能です。さらに、国内外で多くのドローンレースが開催され、操縦の腕や速度を競う大会となっています。
特に驚かされたのは、昨年開催された東京オリンピック開会式でのドローン・パフォーマンスです。ジョン・レノンの名曲「Imagine」に合わせ1,824台のドローンが集団演舞の用に動き、競技場の上空で市松模様のエンブレムを形成したのち、青い地球の形に変わる光の立体ショーでした。
一方、急激に活用領域が拡大したため、さまざまな規制が制定されています。ドローンの飛行に際しては、飛行させる場所とは無関係に、次のルールを厳守することとされています。
などですが、多くの場合、あらかじめ、地方航空局長の承認が必要です。承認を得ないでこれらの方法により飛行させると、「航空法で禁止されている飛行方法」として罰則の対象になります。
産業用
将来的にドローンの活用が最も期待される領域で、既に次の領域での活用、また検証が行われています。
1.農業用:
新技術を導入し産業化が進んでいる農業分野において、農薬散布はかなり普及しています。日本は世界的にも早い段階から民間でドローンを活用してきた歴史があります。1987年にはヤマハが販売した産業用無人ラジコンヘリコプターは、本物のヘリコプターに模した無人機でありドローンに分類されますが、農薬散布用として多くの使用実績があります。2000年初頭の全世界のドローンの約2/3は日本国内での農薬散布という調査結果もあります。
最近では農作物の育成状況のチェックにもドローンが使われています。稀少品種は収穫までに数年を要することもあり、効率的に栽培するため、ドローンを使って成長過程を管理する農家や企業が増えています。また、山梨県などのぶどう農家では、日当たりや風当たりをよくするために枝をカットする「剪定」という作業に、ドローンを利用し始めています。
2.セキュリティ・監視:
大手警備会社のセコムは、2015年からオフィス・家庭向けの「セコムドローン」というセキュリティサービスを開始しています。これは監視カメラとLEDライトの付いたドローンが建物の上空を回遊し、接近した人や車を撮影して同社のコントロールセンターに送信するというもの。固定防犯カメラでは難しい顔の特徴や車のナンバーも鮮明に撮影できます。セコムはこの「セコムドローン」でサービス業初となる「攻めの IT経営銘柄2016」に選ばれました。
同じく大手警備会社のALSOKは、画像巡回を可能にするドローンを開発しました。このドローンは高精細の4Kカメラを搭載し、全方向の画像処理をリアルタイムで行い、完全自立飛行が可能となっています。さらにリアルタイムでの映像送信が可能であり、AIエッジコンピュータを搭載しドローン単体で人物などの検出が可能となっています。
セコムドローンの利用イメージ
(出典:セコム株式会社 WEB)
ALSOK社の完全自律飛行ドローン警備システムの概要
(出典:綜合警備保障株式会社WEB)
3.土木・建築:
株式会社フジタによる「ドローン測量概念図」
(出典:ドローンジャーナル WEB「株式会社フジタ ドローン測量を切盛土工事の日々の出来高管理に適用」)
特に規模の大きな工事現場において、人力で状況を確認するには時間がかかります。ドローンであれば空中を移動できるため、状況把握の時間を大幅に短縮できます。また、ドローンは測量にも活用されています。従来の測量は、専用の機器を用いて地上から行なっていましたが、ドローンを活用することにより上空からの測量が可能になり、高精度化、時間短縮とコスト削減が実現できています。また、橋梁などの点検作業には、従来ゴンドラを吊り下げ、手作業での目視検査が必要でしたが、ドローンの高精細カメラを活用することにより、さまざまな検査を手軽に行えるようになりました。
4.運輸サービス:
全世界的に見た場合、ドローンを活用した運輸サービスは最も期待できる分野ではないでしょうか。日本では宅配便のネットワークが高度に発達しているので、それほど必要性は感じないかもしれませんが、過疎地や離島向けの配送、被災地への運送には極めて有効です。
この領域でも先駆者としての企業はアマゾンです。アマゾンは2013年に「Prime Air」という30分以内に安全に荷物を届けるラストワンマイルサービスを発表しました。広大な国土の米国では、現在アマゾンでは「ラストワンマイル」の配達に8ドルほどかかっていますが、ドローンによる配達により20セント~1ドル程で配達が可能になるという試算もあります。
当初、技術的また制度上の問題点から、本サービスは懐疑的に見られていましたが、アマゾンはNASAやMicrosoftから大量の技術者を採用し、2015年11月には「Prime Air」のための新しい機体を公開しました。このドローンは大型化し、垂直飛行と高速水平飛行が可能なハイブリッド型となりました。最高時速は88kmで、24km以内の範囲であれば5ポンドまでの荷物を30分で配達が可能と発表されました。また、このドローンには、障害物を探知する能力や、着陸地点を認識する能力があり「Delivery Zone」と書かれたシートを庭に設置することで、ドローンがそこに着陸し荷物を送り届けます。
既にFAA(米国連邦航空局)の認可を取得し、さまざまな検証実験を世界各地で行っていますが、最近は「Prime Air」部門の人員を削減しており、商用サービスまでにはもう少し時間が掛かりそうです。
日本でも楽天や宅配会社などがさまざまな実証実験を行っています。
Amazon社が公開したドローン配達用テスト機の例
(出典:BUSINESS INSIDER JAPAN「Amazonの「ドローン宅配」で使う機体を見てみよう」)
軍事用
ドローンが最も実用化され、また頻繁に使用されているのが軍事・防衛の領域です。軍事用ドローンは近年開発されたものだと思われている読者も多いと思いますが、実は70年以上前にその原型が開発されていました。
最初のドローンは第二次世界大戦中の1944年にアメリカ軍が開発した「BQ-7」という無人航空機といわれています。この「BQ-7」は、B-17爆撃機を無人機に改造したもので、高性能炸薬を搭載して突撃することを目的として開発されましたが、技術的な問題で操縦不能に陥ることが多く、任務には1度も成功しなかったそうです。その後も開発は続けられますが、技術的な問題もあり、主として「ターゲット・ドローン」と呼ばれる戦闘機の訓練用標的機として使用されました。
1970年代には偵察用ドローンが開発されるようになりましたが、1990年代にイスラエルで現代版ドローンの原型が開発され、米国で大きく進化し1995年には米国ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社が開発した大型軍事用ドローンRQ-1プレデターの運用が始まりました。プレデターは当初偵察用のUAV(Unmanned Aerial Vehicle)との位置付けでしたが、今は無人攻撃機(UCAV: Unmanned Combat Aerial Vehicle)として進化しました。
最大級のドローンは米国ノースロップ・グラマン社のRQ-4グローバル・ホークで、自衛隊も紆余曲折の後、遅ればせながら「無人機部隊」を創設し導入を決定しました。機体3機と操縦装置2セット他関連施設を含み総額約4億9,000万ドルの契約です。全長14.5m、翼幅は40mと翼幅は大型輸送機・旅客機と同等と無人機ながら非常に大きいドローンです。最大離陸重量は16トン以上、航続距離23,000km、常用高度18,000m。航続時間32時間と一回の飛行で約10万平方km(韓国や北朝鮮の国土面積とほぼ同等)の範囲を偵察でき、有人航空機では難しかった長時間・広範囲の偵察行動が可能になります。本年3月に初号機が導入され、運用準備中です。
プレデター RQ-1
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
グローバル・ホーク RQ-4
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
現在、ウクライナでの戦争では、圧倒的な軍事力を誇ると言われていたロシアに対しウクライナ軍が善戦しています。その背景には各種ドローンの集中的運用が奏功しているとの分析があります。娯楽用のトイ・ドローンも大量に活用し、米国やトルコから提供される各種攻撃用ドローンを極めて効率的に運用しています。
・既に各メディアで報道されているように、ウクライナ軍はトルコ製のバイラクタルTB2というUCAVを効率的に活用しています。バイラクタルTB2はBaykar Defence社によりトルコ軍向けに開発されました。バイラクタルとは、トルコ語で「軍旗」や「旗手」を意味します。 本機の開発には、トルコのエルドアン大統領の娘婿であるMIT出身の、セルチュク・バイラクタル氏が中心的役割を担ったと言われています。
トルコ製の無人戦闘機「バイラクタル」
(出典:ウクルインフォルム通信)
・米国AeroVironment社が2012年に開発した「Switchblade(折り畳みナイフ)」はその典型で、自爆型と呼ばれる超小型のドローンです。モデル300はチューブ状の格納筒に主翼・尾翼・垂直尾翼が折り畳まれて収納されていますが総重量は2.6Kgと軽量です。オペレータは車両に設置されたモニターにより標的に向けて発射し、後はカメラ映像を見ながら誘導するだけです。弾頭は軽量ですので、戦車を破壊することは難しいですが、軽装甲車両などには有効です。価格は6,000ドルと言われています。
その上位機種としてモデル600が追加開発されています。重量は23kgと重くなっていますが、操作性はほぼ同じです。最大80kmの航続距離があり、より強力な弾頭を搭載しているので戦車や中装甲車両にも有効といわれています。
SwitchbladeにはBlackwingと呼ばれる空中偵察システムの変形版で、カメラと赤外線センサーと安全なデジタルデータリンクにより迅速な監視、偵察機能を提供するバージョンもあります。いずれにせよ、各兵士が専用の航空支援を持つともいえるものであり、戦いの在り方を大きく変革するものです。
Switchblade 300
(出典:Cpl. Jennessa Davey)
Switchblade 600イメージ図
(Photo by AeroVironment)
軍事領域におけるドローンの適用はコスト・パフォーマンスの観点からも先進国のみならず、途上国まで急速に拡大しています。自衛隊によるドローンの導入は上述のように遅れており、現状200機程度の小型ドローンの保有に留まっています。ほとんどは荷物搬送・観測用途のようですが、全て数十万円の国産機を調達しています。ウクライナの例を見ても、ドローンの活用により戦争の在り方自体が激変しており、早期に調達方針を策定することが必要となりそうです。
このように、ドローンはあらゆる領域での適用が急速に進んでおり、世界市場としては、2020年に225億ドル(約2兆9,000億円)であった市場規模が、2025年には428億ドル(約5兆5,000億円)へ倍増すると予測されています(軍事関連を除く)。一方、国内市場でも2020年度で1,841億円と推測され、2025年度には6,468億円と急拡大が見込まれています。産業構造的には、残念ながら中国がその開発・製造・販売において世界をリードしており、その市場席巻が大いに懸念されるところです。
※「セコムドローン」は、セコム株式会社の登録商標です。
※「PRIME AIR」は、Amazon Technologies, Inc の登録商標です。
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