【JVCKENWOOD NEWS】
今月24日をもって9年間(含む社外取締役1年)経営に携わったJVCケンウッドを退職いたします。それに伴い、“Through Tak’s Eyes” も今回(No. 34)をもって最終号とさせていただきます。これまで長期間、私の駄文にお付合いいただき、誠にありがとうございました。本コラムを借りてお客様、お取引先様、その他読者の皆様のご厚情に御礼を申し上げます。
VUCAの時代
現代はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と呼ばれ、ここ数年ますますその傾向を強めています。そもそも、VUCAは30年程前に言われ始めた「軍事用語」ですが、ここ10年程ビジネス業界でも頻繁に使われるようになりました。本年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻して以来、早くも4カ月が経過しようとしています。いわゆる大国が強大な軍事力を背景に身勝手な理屈を構築し弱小国を恫喝、そして武力行使するという極めて理不尽な行動が現実に起こり、長期化の様相を呈しています。本コラムNo. 30 (2022年2月17日発行)にて「新たな地政学的脅威の背景と過去の世界大戦」を解説し円満解決を心から願いましたが、誠に残念ながらロシアの侵攻が現実のものとなりました。今となっては、過去二度の世界大戦の経過をたどらないことを祈るばかりです。
左から国連旗、EU旗、NATO旗
第二次大戦後、2度と戦争を起こさないという誓いのもとに構築された国際連合においても安全保障理事会常任理事国の拒否権など構造的な無力さ、また同じく欧州における不戦の枠組みEU(European Union)や、ソビエト連邦(現ロシア)の侵攻に備えたNATO(North Atlantic Treaty Organization:北大西洋条約機構)加盟国間における微妙な温度差も浮き彫りとなっています。正にVUCAの時代です。
それにしても、軍事大国の一方的な主張・思惑に翻弄される普通の国の悲哀の現実を見るにつけ心が痛みます。一刻も早く、ウクライナの人々が以前の平穏な世界を取り戻し、破壊された町やインフラの復旧・復興に向けて、全世界が建設的な資源投入をできるようにならんことを願うばかりです。
大国と小国
大国の定義は何でしょうか? 一般的には、国土の大きさ、経済力、人口、軍事力などを総合的に勘案した漠然とした概念でしょう。ご参考までに国土の大きさの大小各5位を以下に示します。面積の大きい国は、皆さんも良くご存じだと思います。
では、国家の定義とは何でしょうか。現在の国際法上、次の三要素となっています。
【国家の三要素】
世界最古の共和国
今回は面積の小ささ第5位サンマリノについて解説します。風光明媚な観光立国であり訪問された方々も少なからず居られると思います。同国はイタリア北部に在り、東京山手線内側程度の領土で、人口34,000人のいわゆる「小国」ですが、上述の「国家の三要素」を備えるとともに世界最古の共和国として存在感を示し、欧州および世界の民主主義発展の理想的な在り方を実現しています。GDPは約16億ドルで、国民一人当たりのGDPは約47,000ドルと高い生活水準になっています。同国は典型的な「小国」ですが、景観が美しいことはもちろん、ユニークな国家統治の仕組みを有しています。
現在は著名な観光地となっているグアイタ城砦
サンマリノは歴史的には紀元301年に創設されたと記録されています。ダルマツィア(現在のクロアチア海岸部)からキリスト教迫害を逃げて来た石工職人の聖マリノが、ティターノ山に籠って仲間とともに街を建設したことにはじまるといわれています。11世紀には最初の砦(グアイタ城砦)が、そして14世紀に最後の3つ目の砦が完成し、城塞都市としての体裁も整えられていきます。このころには既に共和制の政治体制が確立され、1463年に確定した国境線とともに、現在まで変わることなく続いています。政庁やサンマリノ大聖堂が建造されたのは19世紀のことで、これらの建物も世界遺産の構成資産に含まれています。
大評議会議事堂
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia) 』)
サンマリノ2ユーロ硬貨(出典:eurocoinhous.com)
・最もユニークなのは政治システムです。日本の国会に相当する立法機関は大評議会です。定員60名、任期5年で比例代表制選挙により選出されます。行政の長である執政は、大評議会議員の中から互選により、また、特定の執政による独裁化を防ぐため、常に2名が選出され、その任期は6カ月となっています。執政の一人は国家元首、他方は政府代表と役割分担が決まっています、また3年間経過しないと再選は認められない仕組みです。6カ月の任期は余りにも短い印象ですが、多分に象徴的な役割であることと、政治体制が安定しているということなのでしょう。日本の多くの企業の半期決算期のように、任期は4月~9月、10月~翌年3月となっており、毎年4月1日と10月1日に就任式が行われます。
・裁判制度については、極論すれば、34,000人の国民全員が「顔見知り」に近い状態であり、自国民では中立公平な審議や判決が困難であるという理由から、ほとんどの裁判は外国人(イタリア人)の裁判官によって行われます。
・GDPの約50%は観光業です。欧州では珍しく同国では付加価値税が無いため、ショッピングを目的とした観光客が年間約300万人訪問します。ほとんどの観光客は陸路で「入国」しますが、軽飛行機用の飛行場(滑走路650m)もあります。陸路は国境の標識があるのみで、パスポートコントロールはありません。次に銀行業が主な産業となっています。11ある金融機関は、過去一度も倒産(破綻)していません。EUの正式メンバーではありませんが、欧州議会における取り決めによりユーロの流通が認められており、ユーロコインの片側に独自のデザインを使用する権利を持っています。流通量はほんのわずかのため、サンマリノ・ユーロは収集家たちの人気が高いアイテムとなっています。
・サンマリノは軍隊を持っていません。儀仗兵(ぎじょうへい)など国家的な儀礼を行うための部隊のみの保有となっていますが、スイスと同様国民皆兵であり政府は16~60歳の国民を動員できる権限を有しています。
・サンマリノは長寿の国です。外務省のリストによると平均寿命の高い国として日本、スイスとともに最高ランクとなっています。2020年時点で、男性83歳(日本81.64歳)、女性87歳(日本87.74歳)です。「小国」であるがゆえに、VUCAな国際情勢とも無関係で国民のストレスの少なさが影響しているのかもしれません。
・意外なのはサンマリノ郊外に「サンマリノ神社」があることです。東日本大震災の犠牲者を追悼するため、2014年に建立されました。主祭神は天照大御神で宮司はサンマリノ人です。小さな神社ですが、本殿の一部は伊勢神宮の木を使っているそうです。サンマリノ神社は欧州で初めて日本の神社本庁に承認された神社です。
サンマリノ神社
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』)
以上、簡単ですが、世界最古の共和国サンマリノについての解説をさせていただきました。私自身、同国を訪問した経験はありませんが本コラムへの寄稿を通じて、日本を含む大国とは対極にある同国に強い興味が湧きました。今月24日、JVCケンウッドを退職し時間的な余裕もできますので、近い将来サンマリノを訪問してみたいと思います。
最後に
読者の皆様、長期間 Through Tak’s Eyes にお付合いいただき誠にありがとうございました。これまでのご厚情に厚く御礼を申し上げると共に、皆様のますますのご健勝と更なるご活躍をお祈りして、Through Tak’s Eyes の最終回とさせていただきます。
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